お知らせ
湘南獣医師会
逗子市内のレプトスピラ症発生に関する情報について
10月末日に、逗子市内の動物病院(湘南獣医師会会員外)で1頭の既往症、旅行歴のない2歳令のわんちゃんが不幸にも2日でなくなる事象が発生しました。
診断で、レプトスピラ症で亡くなったようです。聞きなれない病名かもしれませんが、この病気は人にも感染する危険性があるためその発症を見つけた場合、家畜保健所に届け出をしなければならない届け出伝染病(人畜共通伝染病)です。
最近の日本国内での発生は、2004年以降減少傾向にあり、主に関東より西に集中しています。神奈川県内では、2011年と2014年と2019年に1件ずつの届け出があります。
そこで、飼い主さんとその愛犬をレプトスピラ症から守るため、病気の説明と感染予防のための対応の仕方をご紹介します。
➀病気について
(原因菌)レプトスピラ症は、スピロヘータ科レプトスピラ属の細菌によって引き起こされる人畜共通伝染病の1つです。
(感染動物)感染は犬だけでなく、牛、馬、豚、山羊、羊などの家畜をはじめ、ネズミ、コウモリ、キツネなど野生動物(逗子市内でいえば、台湾リス、ハクビシン、タヌキなど)全ての哺乳類に感染する
(伝播)この病気に罹っている動物が排せつしている尿の中に病原菌が含まれていることです。つまり、菌の伝染はレプトスピラ症に罹っている動物の尿中に排泄された病原体を直接または間接的に取り込むことで成立します。尿で汚染された水(淡水)、湿った土壌、食べ物などが感染源になります。尿中での生存期間は短く、ちなみに、中性あるいは弱アルカリ性の淡水の中でしか菌は生きていけないので海水の中では生存できないと推測されます。乾燥に弱いので砂の中では生きていけないと推測されます。
(発病)潜伏期間は、1~14日程度ですが、犬や若い個体、十分な免疫を持たない個体では重篤な感染を起こしやすいといわれています。ちなみに、野生動物は、あまり重篤にならずに数か月から一生涯菌を排出し続ける場合もあるそうです。なお、猫ちゃんの発病はまれなようですが、たとえ発病しても軽い症状で済むか、不顕性感染であることが多いです。
(症状)一般的な症状は、体温上昇、食欲不振、元気消失、嘔吐、脱水さらにそれに伴って粘膜の潰瘍形成(歯茎、舌から出血)、粘膜充血、ぶどう膜炎、黄疸、腎機能不全、肝機能不全などです。(ただし、他に原因がある場合もあるので、レプトスピラだけ特有の症状ではありません。)
犬の場合は、他の動物より肝不全や腎不全が重度に起こりやすいと言われています。
(診断)特殊な方法による顕微鏡検査で確認することができる場合もありますが、うまくいかない場合も多いです。抗体検査も有用ですが、レプトスピラを含むワクチンの接種履歴や潜伏期間が数日から14日程度で、感染後1~3週間後に抗体価が最大になるので、1週間目だと抗体検査で陰性となる場合があります。最近は、遺伝子学検査(PCR検査)で感染を確定する場合が多いようです。検体は、発症4日以内なら血液、それ以降は尿を用います。
(治療)抗生物質の投与と体全体のバランスを維持する支持療法を行いますが、甚急性で肝不全や腎不全を発症している場合は治療が間に合わない場合が多いです。
➁対策
飼い主さんは、この病気の情報に関して必要以上に神経質になってはいけません。
きちんとした管理と予防をすることで十分に対応できることを先ず認識してください。
変なものを口にしないようにリードは短く持つことをお勧めします。
汚染尿が混じっている水、土壌(特に山や川)への散歩は注意しましょう。
特に、嵐や激しい雨が降った後には汚染土壌や水が流れ出ているかもしれません。
オシッコなど排泄物をした場合はしっかり流して(次亜塩素酸で流すと効果大)きちんと手を洗いましょう。
海水中に菌は生存できません。乾燥したところでは生存できませんので海岸の砂や海岸での感染は可能性低いでしょう。
おそらく台湾リスなどの逗子にいる野生動物がレプトスピラの菌を持っている個体があり、不顕性感染で自身は問題ないが、尿に菌を排出し続けているのであろうと思われます。今回の事象に関しては、たまたま摂取してレプトスピラに感染して残念なことに亡くなってしまったのだろうと思います。
今後、1か月の間に他に感染した患者さんが出た場合は、そのわんちゃんと亡くなったわんちゃんの共通項(主に散歩コース)の検証と感染源の特定が必要になると思います。
③予防
直接的な予防法としてはワクチンが有用です。
すでにレプトスピラ症に対応しているワクチン(7種、8種、10種)を接種している場合はとりあえず問題ありませんが、危険なところに近づくことは極力避けてください。日本には14種類の型が報告されていますので全ての型を予防することはできません。甚急型の数日で亡くなる型のカニコーラ型とイクテロヘモラージ型はワクチンに入っています。
5種混合ワクチンなどレプトスピラに対応していないワクチンを接種している場合は、ご心配であればレプトスピラに対応しているワクチンの接種をお勧めします。
予防注射の説明、有効期限、費用など詳しい内容はかかりつけの動物病院にご相談ください。